昨日、信州・まつもと大歌舞伎「佐倉義民傅」を観てきました。
シアターコクーンで先月上演された作品です。
平成中村座の役者さんたちに加え、農民役で普通の役者が何十人も出ており、しかもラップを歌っちゃうんですよ。出演している知り合いの役者は「渋谷に見に来ればいいじゃん、何でわざわざ松本に〜」と半ばあきれ顔。
でもこの松本の歌舞伎どうしても観ておきたくて行ってきました!
この2年間ご縁あって仕事で3本も松本の舞台に出演し、合計半年近く滞在して、知り合いも増え、何だか愛着のある街なんです。本当に魅力あるところです。そして、2008年に初めて松本で歌舞伎公演をやった時の話を関係者から熱烈に聞かされていたため、もう次はなんとしても観なければと思っていたんです。
3日の夜公演を観て翌4日の登城行列を観て帰ってきました。
いやもう〜なんと言ったらいいんでしょうか。いや〜良かった!
『佐倉義民傳』は、正保年間、下総佐倉の領主の圧政に苦しんだ領民のために、名主木内宗吾が江戸へ出て将軍に直訴した事件を扱った作品で、歌舞伎には珍しい農民劇です。
歌舞伎役者さんたちは、古典の確かな技術に則りながら新劇のように演じていて、軽やかでリアルで生き生きとまっすぐに伝わってくる芝居でした。そして、何十人もの普通の役者たちが農民を演じたのですが、松本はそれに加えて、60人くらいの市民キャストが農民として出演しているんです。老若男女、中には本物の農家の方もいらして田植えの動きなんかがすごく説得力があるんです。これでもかこれでもかと出てくる出てくる農民!たくさんの民衆のパワーには圧倒されました。素晴らしかった!作品全体にはかなり今の時代や政治に物申すという意気にあふれており、今何故これを上演するのかということがはっきり表されています。それも良かった。民衆の集会と言ってもいいくらいです。
そして、何よりも私が胸が熱くなったのは、この歌舞伎は東京からのお仕着せではなく、市民が作っている歌舞伎だということです。市民キャストを始めたくさんの市民サポーターやお店が劇場内外、行列を支え、街中が心から歌舞伎というこの上もなく面白い大掛かりなお祭りに参加しているんですよ。ほんとに「市民が主役」の歌舞伎だと思いました。街中を巻き込んで楽しんでる、その喜びが伝わってきて、これは歌舞伎座では絶対に味わえないものです。
いいなあ!松本が羨ましいです。本当に。
こんな話も聞きました。行列の先頭を山車がいくのですが、その中でこどもたちが松本囃子を演奏してるんです。2008年の時はこどもはもちろん大人でも松本囃子を継承している人がほとんどいなくて、近隣からの寄せ集めだったとか(違ってたらごめんなさい)。このままでは本当に廃れてしまうとの危機感から、その後、次の歌舞伎行列を発表会として、お囃子をやりたい子を募集したら、なんと、80人も応募があり、古い人たちの協力も得て、なんとか松本囃子を復活させることが出来たんだそうです!一生懸命練習したこどもたちの笛や太鼓の美しい音の響き渡る中、松本城に向かう目抜き通りを、役者の乗った人力車がぞろぞろと進んでゆくんです。待ってましたとばかりに、沿道の人たちは握手したり写真撮ったり声かけたりしてるんです。これもお仕着せのパレードじゃないんですね。いいなあと思いましたよ。客も役者も。幸せですよこれは。
歌舞伎を上演することによってその土地の文化や伝統が継承されていくきっかけになった。松本はプライスレスな財産が生まれたんだと思います。
私も楽しくなって行列に向かって「中村屋っ!」とか「成駒屋っ!」とか声を掛けてたんですけど、声が大き過ぎて周り中に振り向かれちゃった。恥ずかしくて遠慮しちゃった。でも、屋号で声かけると歌舞伎役者さん必ずパッとこっち向いてくれますよ。これ、ちょっと快感。皆さんも機会があったら是非、ご贔屓の役者に屋号で声を掛けてみて下さい。え?屋号が分からない?松本ではちゃんと屋号が載ってる瓦版を法被を着た市民サポーターが配ってました〜。
笹野高史さんみたいに「〜〜屋」と、いつか私も呼ばれてみたい〜。
歌舞伎だけじゃなく、演劇がこんな風に日本中のあちこちで地域を元気づけられたら、街の人々と喜びを分かち合えたら、最高です。