私は今もまだ、地上から60センチくらい浮遊したままです。許されるならこのままあっちへ行ってしまいたいです。(笑)
今回の公演を終えて、美術家のトクマスヒロミが自身のブログに書いているのをまずはお読み下さい。彼女の軽快な文章から私たちの勢いが感じ取っていただけると思います。
http://to-ku-3.jugem.jp/?day=20130617
さて、何から書けばいいかしら、あまりにたくさんのことが私に起こって、どこから手をつけて良いのか分かりません。
今回の「いさかい」という作品は振り返ってみると、本当に、私たちのユニットとって他のどこにもない特別な作品になったと感じています。
「いさかい」を一人芝居にしたのは(たぶん)本邦初なのではないかと思います。
このユニットは、これまで「平家物語」という作品で、私のいわば「一人芸」と永田砂知子の波紋音とトクマスヒロミの美術空間と横原由祐の照明世界を掛け合わせて、作品を作ってきましたので、いさかいも普通の芝居ではない、私たちのやり方で新しいカテゴリーの作品を作りたいと思っていました。それがまあ、この無謀な計画となったのです。
「う〜ん、たぶん〜〜できるような気がする〜」というかなりいい加減な予感を頼りに、私は10人以上登場する原作台本を、一人芝居用にテキスト・レジ(上演条件に合わせ台本に手直しを加えること)をし始めました。こんなにがっつり戯曲をテキ・レジしたのは私にとって生まれて初めてです。メンバーははたして上手くできるの?という一抹の不安を感じつつも「いいだしっぺはあなたです」という突き放した温かい眼で見守ってくれていました(笑)。ありがとう。
井村順一氏の翻訳台本を読み込み、登場人物の関係を上手く抽出しながら一人芝居に仕立てていく作業は、いったん編み上がった模様入りのセーターをほどいて編み直すようなものでした。色糸がこんがらがってしまわないように丁寧にほどき、元の模様を「まさにそう!それよ!」と感じられるように編み直す。脳内腱鞘炎になりそうでした(笑)。
台本は本番直前まで検討を重ねました。慣れないフランス語原文もあたって、辞書を片手に自分なりに訳し直した箇所もあります。しまいにはフランス語がしゃべれるような錯覚に陥りました(笑)。稽古の度にメンバーに「どう?わかる?ねえねえ、おもしろい???」と聞きまくり、それぞれの率直な意見を参考になんとか一人芝居用台本が完成!
さて、いよいよ最初の稽古で立ってみると、「平家の語りと違って、自由にやればいい」という予想とは裏腹に、自由に適当にやっても何も見えてこないという大前提に気づいてしまって一同焦りまくり。かなり演出、動きなどをきっちり決め込んでいきました。とはいえ、語りではなく芝居なので私自身がどれだけ自分で自由になれるかという点も重要!しかも今回は両側からお客様から見られる舞台。きゃー!
このユニットは普段ならお互いタッチしないところまで踏み込んで、物作りができる希少な場です。今更ながら今回の稽古と本番を通じて、本当に私は三度の飯より芝居を作る事が好きなんだなあと思いました。
さて、舞台の模様を再現してみましょう!
この「いさかい」は、18世紀の王侯貴族が、“恋愛においてはじめに不実を働くのは男と女のどちらか?”を確かめるために、生まれたばかりの男女4人の子どもを誰にも合わせないように監禁して育て、19年後の今日はじめて自分以外の異性と同性に会わせて何が起こるかを見るという、本当だったらかなり人権を無視したお話です(笑)。
今回は演技エリアはセンターに配置し、両側からお客様に実験を見ていただくような舞台空間にしました。この橋がかりのような細長いシンプルな舞台!真ん中にエグレが自分の顔をはじめてみる小川があります。
最初に登場する王子とエルミアーヌを、初日はリーディングの形式で差別化しようと思ったのですが、つかみとして硬くてつまらんという意見もあり、2日目からは客席に座ったりグラスを持たせたりしてお客様を巻き込む演出に変えていきました。
物語は4人の19歳の男女の中で、エグレという女の子の目を通して進んでいきます。監禁状態からはじめて外の世界に出て、小川に映る自分の顔を見たエグレ、その美しさにすっかり夢中になり大はしゃぎです。(恥ずかし気もなく自分の顔を「美しくて魅力的!」言っちゃうところがすごい!)
そこへアゾールという男の子が登場します。生まれて初めて見る自分と同じ人種の「男性」。エグレは一目見るなり自分と同じくらい美しいアゾールに夢中になり「ずっと愛する、いつも一緒にいる!!」と誓います。この光っているのが小川です。小川に隔てられた2つのエリアは「別の世界」の象徴にもなりました。
ところが世話係のカリーズからは、「ずっと愛し続けたいなら無関心にならないよう、時には一緒にいる喜びを捨てろ」と忠告されます。そんな事は絶対にないと言い張るエグレ。…実は黒人の世話係のカリーズ役は永田さん!でも永田さんは台詞はしゃべりません。どんなにエグレが話しかけてもクールに演奏するばかり。そのずれた存在感がなんとも味がありました。(本当は台詞を言いたくてたまらなかったらしいですが(笑)。ほら、黙って背中で演技してるでしょ?)。
カリーズに鏡をもらってお気に入りの自分の顔が映り「大発明よ!」と喜ぶエグレ。
しかしだんだん心配になってきてエグレは、アゾールに「辛い目に遭ってみよう、2時間だけ別れよう」と泣く泣く別れます。
ひとりぼっちになったエグレの前に現れたのが、高ビーなキャラのアディーヌ。2人はどちらが美しいかでお互いに口汚く罵り合います。そして腹を立てたエグレは「あんたの恋人メスランとやらを奪い取ってやる」と啖呵を切って去っていきます。さっきまで男の前で可愛かったあの姿はどこに〜〜?!女ってこわ〜〜。
ところがそこに現れたのが男の子のアゾール。メスランは「君を見ていると元気になる。君と食事をしたら愉快だろうなあ!!」と初めての出会った男同士の友情にすっかり大興奮!飛び跳ねちゃったりして(笑)。男の子って18世紀から単純でかわいいのね…。
そこへエグレが現れます。メスランは予想外のエグレの美しさにすっかり参ってしまいます。エグレも2人目の「男性」(エグレはまだメスランの名前を知らない)を見て、アゾールにはない「新しい魅力」を感じ、一目見るなり自分のそばにいるように誘い(本能って恐ろしい!!)、それに嫉妬するアゾールに向こうへ行くよう冷たく促します。 しかし、アゾールはメスランを連れて行ってしまいました。そのことが気に入らないエグレ。
1人取り残されたエグレは、カリーズに自分の中のもやもやした気持ちがなんなのか、さっぱり分からないとぶつけるうち、浮気心を責められますが、自分が悪いとは全く思いません。ビスケットぽりぽり、私はみんなに愛されるのが喜びなの!と大演説。でも、この心変わりの居心地悪さには満足していません。「自分の心は、この心変わりを良いと言ったり悪いと言ったり、いったいあたしはどっちにつけばいいの??」と悩みます。そして出した結論が「好都合な方を選ぶしかないわ!」うわ、ポジティブ〜!
そこへやってきた2人目の男性(=メスラン)の愛を確かめると、一応「アゾールがいるからあなたを愛さないでおきたいわ〜」なんて言ってみるのですが、その彼がアディーヌの恋人メスランと分かった途端、一転、エグレは獲物を捕らえる野獣のごとく彼を自分のものにします。高らかなエグレの勝利宣言!
そこへとアゾールが姿を現します。アゾールがまだ自分を慕っていると思い込んでいるエグレは、2人の男性を自分のものにする気満々。アゾールに「メスランを愛している。あなたにはもう関心がない」と告白すると、嘆き悲しむどころか、アゾールも「そいつは素晴らしい!大いにやりたまえ、僕ももう君には関心を持たない」といなくなってしまいます。「なにそれ?どういうこと!?」と呼び戻そうとするエグレ。今度はメスランから「なんでアゾールを呼び戻すのさ?」と責められると、「なんであたしが何かを失わなきゃならないのよーっ!」と本音丸出し!世話係カリーズに笑われてぶち切れまくり!そこへ、な、な、なんとアゾールとアディーヌがカップルになって登場!「アゾール!話があるのよ」「メスラン!そっちへ行っちゃダメ!」「なんなのよー!これ?!」とついにぶっ壊れるエグレちゃん。
永田さんのピアノも壊れます!
とうとう、見ていられなくなった貴族のエルミアーヌが入ってきて、実験を止めました。
エルミアーヌは、エグレとアディーヌは女性の中でもおよそ憎むべき2人だと主張しますが、王子は「男性も女性も責められるべきではありません。悪徳も美徳も双方とも等しく持っているのですから」とこの一連の論争に終止符を打とうとします。
と・こ・ろ・が!
エルミアーヌはまたまた「あら、少しは区別して欲しいわ」と蒸し返すのです。
…「いさかい」は続くよ永遠に(笑)。
鳥かご照明と衣装については前掲のトクマスブログをご参照下さいね!
この芝居は、王子とエルミアーヌ、エグレとアゾールとアディーヌとメスラン、エグレと世話係カリーズ、エグレの心の中…いくつもの「いさかい」が絡み合っています。作者マリヴォーは男性の視点で本当によく女性の生態を観察しています。気の多い女性を批判しているようでいて男性のことも同じように茶化しているところが、時代を超えた面白さなのかもしれません。マリヴォーは「女ってさあ」と言いながら、女性の無邪気な気の多さに振り回されつつ、それでもやっぱり惹かれてしまっていたのかもしれません。マリヴォーの描く女性について一番鋭い分析をしていたのが、何を隠そう黒一点の照明横原くん。姉さん達3人が「なんだこの女?」とブーイングしている中で、やっぱり女というものがよく見えているんでしょうね(笑)。そして、世間で「男前」と評判の高い?私はこれまた何を隠そうこんなにきゃわゆい女の子らしい役は生まれて初めてでございました。たぶん実生活でもこんなに可愛かったことはありません。(これを可愛いというならばね!)はい、すみません。
頂いた感想の中でも、「イケメンじゃない方の男の子が気になりました」「見えないはずの他の役が見えました」とおっしゃっていただいたのがとても嬉しかったです。見えないものが見えるなんてもう最高です。
そして、今回相談に乗って下さったマリヴォー研究者のO女史もこの演出を大変面白がって、パリ大学提出の博士論文で私達の作品を取り上げて下さるとのこと、ブラボーです。
永田さんにはできる限り「とぼけた」音をお願いしました。今回はいつもの波紋音はなし。ピアノと様々な打楽器を駆使して音を作って下さいました。永田さんの存在と音が登場人物と離れているほど、彼らのやりとりが滑稽に見えてきます。普段、芝居とほとんど共演しない永田さんの感想が最高におかしかったです。「5回もやって飽きると思ってましたが、毎回芝居が違って飽きませんでした〜」。永田さんが途中で飽きなくて何よりですっ!ありがとうござます!
そう、毎回芝居を変えました。自分の中で少しでも不明瞭なところはお客様の反応を見ながら、毎回メンバーと一緒に変えていきました。当初わたくし、エグレの「恋」というものを噛みしめちゃってたんですが、恋って何回か経験しないと噛みしめないんじゃね?と思い直し、異様なはしゃぎッぷりにシフト。アゾールとのいちゃいちゃもしっかり増やし、なのにアゾールに嫉妬された途端に彼を憎む。そんなところが本番を通してよりはっきり見えてきました。5回目の最終回は、作品の背骨が一本きちんと通ったような気がします。お客様も大受け、どかどか笑いが飛び出し、私も私自身ではなくそれぞれの「役」として舞台で驚くほど勝手気ままに生きていました。そこに到達できたことが役者としては本当に今回の公演をやった甲斐がありました。あああ、いっそ、チケットを回数券にして皆さんに何回も見ていただきたかったですぅ〜!(そんなに暇じゃないって?)
役者と作品に寄り添って美しい明かりを作ってくれた横原由祐に感謝します。
そして、ものすごくシンプルで逃げ場のない美しい舞台空間をデザインしてくれた(その上、この作品を薦めてくれた)トクマスヒロミに拍手を贈ります。あの空間がなければ、作品がここまで成長しなかったと思います。
そして、なんと言っても、お忙しい中ご来場下さった皆様に心より御礼申し上げます。
ありがとうございました。また、どうぞ、私達の実験劇場をご見物にいらして下さい。
こころよりお待ちしております。
(ああ〜〜長くなっちゃってごめんなさい!)
出演
金子あい
永田砂知子
原作 マリヴォー
翻訳 井村順一
テキスト・レジ 金子あい
演出 金子あい
音楽・演奏 永田砂知子
美術 トクマスヒロミ
照明 横原由祐
ヘアメイク 氣賀澤祀夫理
協力 伊奈山明子
奥 香織
写真 NOKO
企画・製作 art unit ai+
2013.6.12~14@絵空箱