2014年9月14日日曜日

鶴見和子山百合忌『遺言 弊れてのち元まる』


ずいぶん日にちが経ってしまいましたが、去る7月31日は、国際的社会学者で思想家の故鶴見和子さんの命日でした。
昨年に引き続き、鶴見和子さんを偲ぶ「山百合忌」で鶴見さんの著書を朗読させて頂きました。今年も鶴見さんの形見の着物を着て大感激です。鮮やかでしっとりとした紺の縮緬地に草花と源氏香が刺繍されている素晴らしい着物と焼銀に古裂を取り合わせた(なんと表現していいのか分からない…)これまた素晴らしい帯でした。本当に袖を通すだけで気持が引き締まります。偶然にも私は鶴見さんと同じサイズで着丈も裄もぴったりでした。

私は残念ながら鶴見さんの生前お目にかかる機会はありませんでした。今更ながら本当に残念です。ご列席の皆さんはみな鶴見さんと親しかった方々ばかり。そんな皆さんの前で鶴見さんの著書を朗読するのはいささかどころかかなり緊張しましたが、大変光栄なことでした。
今回読んだのは、2007年に藤原書店より発行された『遺言 弊れてのち元まる』より最終講演の章です。鶴見さんはそこで、自分がいなくなったときにと、2つの言葉を遺言として残しています。

1つ目は「憲法九条を守って下さい」

大国の戦争に巻き込まれてはならない、そのためにはどうしたらよいのか。九条の祖型は、第一次世界大戦後の1928年に、アメリカの国務長官ケロッグとフランスの外務大臣ブリヤンがパリで戦争放棄の約束をした「パリ不戦条約」(ケロッグ・ブリヤン条約)です。アメリカの押し付けた思想ではない。人類の理想なのです。

2つ目は「曼荼羅の知恵をよく考えて下さい」

南方熊楠、クストーは生物の多様性、文明の多様性がどれほど地球にとって大事なことか説いています。曼荼羅というものはひとつの空間に複数のものが存在するということ。異なるものが異なるままに共に生きる道を探求する。気に入らないから相手を殺す、排除するというものではないのです。

私の朗読の後に、能楽師の野村四郎先生が地唄の佐藤岳晶さん、尺八の設楽瞬山さんの音楽と共に舞を舞われました。その静謐な空気の中での舞の素晴らしかったこと…同じ舞台に居られるだけで胸がいっぱいになりました。

四郎先生は大変ウィットに富んだ素敵な方で、お話がしゃれているだけでなくハッとするような名言が次から次へと飛び出してきます。我々芸の道を志す者にとっては四郎先生とご一緒して打ち上げでお酒を飲めるのはとっても楽しみです。鉛筆舐め舐め心の手帳に必死に書き留めました(笑)。


私はいま、この時に、このような素晴らしい方々とともに、鶴見和子さんの言葉を朗読できることを深く感謝し、そして多くの方々に「遺言」を読んで頂きたいと心から思っています。

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